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青い瞳のレクイエム#02.1『その 突然のお知らせってば…』

ARIAの二次創作小説(続き物)です。
主人公はオリジナルキャラクターですので、その点をご留意くださいませ。

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 街を眠りに包んでいた漆黒の闇も、黄金色に輝く空の王者の前には太刀打ちできるはずもない。
 どんなに暗い夜にも、必ず日は昇り、朝がやってくる。暗闇に怯え、毛布に包まって過ごした恐怖の夜にも、必ず明るい朝はやってくるのである。

 そう、ネオ・ヴェネツィアは輝ける太陽に照らされて、新しい一日を迎えていた。

 まだ夏真っ盛りというわけにはいかないようで、しっとりとした海風はほんの少しだけ肌寒い。しかし、その風もランチの時間帯には汗を誘うような暖かい風に変わっていることだろう。
 早朝にもかかわらず、このネオ・ヴェネツィアの市場は食材を買い求める人々であふれ、家々の煙突からは朝のにおいを感じさせる煙が立ち昇る。いつもどおりの光景だが、この光景が見られるからこそ――あぁ、今日もいつもの一日が動き出したんだな――そう思わせる、人の営みが成せる当たり前で幸せに満ちた光景だった。その見慣れた光景から再び始まったネオ・ヴェネツィアの一日は、街の中心ともいえるサン・マルコ広場にある時計塔の鐘の音で、朝から昼へ、昼から夕へと時が刻まれ、そしてまた新しい朝へと続いていくのである。

 そんな活気に満ち始めたネオ・ヴェネツィアの南岸、ネオ・アドリア海沿いを走るネオ・スキアヴォーニ河岸通りの東の端。通りからは小さな桟橋一本分だけ離れた海の上にある、まるいレンズ窓が特徴的な小さな建物でも、新しい朝が動き始めたようである。



「起こしちゃってごめんね。今日もあまり眠れなかったんでしょう……。まだ寝ていて構わないのよ?」
 ベランダのように二階の周囲に作られた桟路に立ち、手すりに手をかけ、ふくよかな白猫と並ぶ寝間着姿の少女を見上げる女性が一人。彼女は白地に青の紋様が美しい服を身にまとい、同じく白地に青の紋様が美しい舟の上から心配げな声を少女にかける。
 そんな彼女を桟路から見下ろす少女は、女性の言葉どおりにまだ寝足りないといった様子だ。かぶっていた猫耳付きのナイトキャップを取ると、指の背で眠たそうな目をこすりながら申し訳なさそうに頭を下げた。
「はぃ、ごめんなさい……」
 謝る少女に、舟の女性は笑顔で首を横に振る。
「気にしないで! 朝ご飯、テーブルに置いておいたから、遅くなってもちゃんと食べるのよ?」
「はぃ、ありがとうございます」
 少女は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。そんな少女に、舟の女性は残念そうに表情をくもらせた。
「ごめんね、私で力になってあげられなくて……」
 今度は少女が慌てて首を横に振る。
「そんなことないです! ここ何日かは普通の夜が続いているので、今日はきっと普通に眠れると思います。本当にご迷惑をかけて申し訳ないです……」
 そう肩を落とす少女に、
「そう、そのことなんだけど」
 と、女性は思い出したように嬉しそうな笑顔を向けた。
 彼女の乗る細身の舟は、おそらくゴンドラだろう。舟尾(せんび)に立ち、オール留めに留められたオールを慣れた手つきで動かすと、ゴンドラを少しだけ少女の方へ寄せる。
「友達やお付き合いのある人に相談してたんだけど、灯里ちゃんの力になってくれそうないい人を紹介してもらえたの! 今朝、その方から連絡をいただいたんだけど、今日の夕方には来てくださるそうだから、お話しだけでも聞いてもらうといいんじゃないかしら」
「……力になってくれそうな人、ですか?」
 首をかしげてきょとんとする少女に、ゴンドラの女性は柔和な笑みのままこくりとうなずいた。
「えっと、アリシアさん。その『いい人』ってどんな方なんですか?」
 そう問う少女にゴンドラの女性はにこりと笑って、
「その人はね……」


「ええぇぇぇ!?」


 ゴンドラからの返答があまりにショッキングだったのか、口を大きく開けて固まる寝間着姿の少女。彼女を見上げて何事かと首をかしげる、白くふくよかな猫。そして、まさかそんなリアクションをされるなど思ってもいなかったのだろう。ゴンドラの女性は「あら?」と困ったような笑顔で頬に手を当てた。

「そんな、悲鳴を上げるほど怖い方じゃないと思うんだけど……」
 苦笑いのゴンドラの女性に、
「そ、そうなんですかぁ?」
 桟路の少女はまだ半信半疑なようで、手すりに手をかけたまましゃがみ込み、潤んだ目で助けを求めるように眼下の女性を見つめる。そばにいた白猫が、不安げな彼女を慰めるようにそっと手を伸ばした。
「うーん……」
 ゴンドラの女性はそう考えるも、
「私も今までそういうお仕事をされてる方にお会いしたことがないし、来てくださる方にもお会いしたことはないから、怖い人じゃないかどうかはちょっと自信がなくなってきちゃったわ」


「ええぇぇぇええ!?」


 ショック顔で手すりにすがりつく少女に、苦笑いでゴンドラに立つ女性。そして少女の気持ちを分かっているかのように慰めの手をかける白猫。二人と一匹を沈黙の間が包み込む。

 そんな微妙な間に包まれた三人の間に入り込み、その時間を再び動かし始めたのは、ネオ・ヴェネツィアに優しく鳴り響いて八時を告げる時計塔の鐘の音だった。





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