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青い瞳のレクイエム#03.2『喪服なスーツの迷い人(2)』

ARIAの二次創作小説(続き物)です。
主人公はオリジナルキャラクターですので、その点をご留意くださいませ。

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 さて……

 閑静な小道で喧嘩――といっても、はたには少女が一方的に声を荒げているようにしか見えないのだが――を始めたこの二人を簡単に紹介しておこう。



 ご機嫌斜めな少女にかみつかれている青年男子の名前は水谷原穏(みやはらやすき)。
 喪服のように真っ黒なスーツと真っ黒なネクタイに真っ白なシャツが映える彼は、とある小さな教会のエクソシスト(祓魔師)だ。
 エクソシストといえばなんとも超常的なイメージだが、この彼に関しては、ベッドの上に張り付けられすごい形相で暴れ狂う人間から悪霊を祓うといったような大仕事を行っているわけではない。
 彼がご近所様のお悩み相談を受けることは確かなのだが、その相談事の多くは、世間一般でよく『幽霊』と称されるモノとはまず無縁な内容だった。教会に飛び込んでくる依頼の一つを挙げてたとえれば、「怖いから」とか「不安だから」と言えばすぐに来てくれる穏達を孫のように可愛がるおばあちゃんと夕飯をご一緒し、お茶をいただきながら世間話の相手をしたりと、エクソシストという肩書きなどなくてもいいような相談事がほとんどなのであった。
 当然、彼はエクソシストとして教会に名を置いているわけだから、その肩書きに相応しいような「夜中に変な物音が!」といった相談も寄せられはする。しかし、そういった出来事が悪霊の仕業であるということなどそうそうあるはずもなく、たいていは屋根裏に鳥が巣を作っていたり、入り込んだネズミが走り回っていた音だったりと、教会からエクソシストを呼ぶよりは保健所にでも電話した方が迅速かつ確実であるようなことが原因の常なのである。
 もちろん、彼がただの名ばかりというわけではない。彼が、エクソシストなどという普通の生活を送る限り無縁の肩書きを得ることになったのにはきちんとした理由があるのだが、それは追々、彼自身の口から語られることになるだろう。

 さて、そんな特殊な肩書きを持つこの青年も、風貌はといえば――ただ一点を除いて――いたって普通である。
 人によって長いとも短いとも判断が分かれそうな長さの黒髪は中分けにし、視力が悪いのか眼鏡をかけている。体型も中肉中背でこれといった特徴に薄く、良くも悪くもまじめそうな青年だ。
 しかし、どこにでもいそうに感じる特徴の薄い彼にあって、その左目だけはひときわ目立っていた。
 眼鏡の奥に見える彼の左目は、まるでサファイアかアクアマリンか、そんな青い宝石のような色をしているのである。
 左目がそんな青色でも、対になるはずの右目は黒っぽい。両目とも同じ色なら瞳が青かろうがさして気になる特徴ではないのかもしれない。しかし、左右の色が異なるとなると話は違ってくる。会話をするときは、みんな自然と目を見るからすぐにその特徴に気づくだろうし、気がつけばその不思議な様相に思わずまじまじとのぞき込んでしまうかもしれない。それくらいに彼の青い左目は黒い右目と相まって、普通とは違う不思議な雰囲気を放っていた。


 そして、そんな虹彩異色の彼を仏頂面で見上げる少女の名前はトレニア。
 彼女は、エクソシストでこそないが、穏が所属する教会付設の孤児院に住んでいる関係で、彼との付き合いは短くない。穏と知り合い、そして彼がエクソシストとして活動を始めてからは毎回のように同行しており、今日もこうして彼を手伝うために助手としてついて来ているのである。
 教会のシスター達は、そんな風に穏について回るトレニアを見ては「血のつながった兄妹(きょうだい)にも負けないくらい仲のいい二人」と、兄妹を見る目で温かく見守っている。けれども、孤児院でトレニアと寝食を共にしている子達にしてみれば、本当の兄妹でもないのにしょっちゅう一緒にいる二人は、兄妹というよりもむしろ恋人同士にしてしまいたくて仕方がないらしく、いつまで経っても穏との浮ついた話をしない彼女にやきもきさせられているようだった。もちろん、周りの子達が勝手にカップル成立を願っているだけで、当のトレニアが穏のことをどういう目で見ているかは、まさに――彼女のみぞ知る――であるが。

 そんな彼女の風貌はといえば、着ている服こそ目の前の青年と同じような真っ黒のパンツスーツに真っ黒のネクタイ姿だが、さすがに目の色は彼と違って左右とも同じである。
 端整な顔の中でエメラルド色の輝きを放つ瞳はクリクリと可愛らしく、額には金貨のようにきらめく髪がサラサラとかかってとても美しい。それでいて、彼女の肌は日にやいたように小麦色だ。活発そうな顔だちやスラリとした肢体と相まって、まさに『健康美あふれる美少女』といった様相である。
 穏がその不思議な両の目で人の目を惹くとするなら、トレニアはその健康美で異性に限らず同性の注目をも惹きつける姿が想像できた。とはいっても、彼女いわく『小麦色の肌』は生まれついての地肌であり、当の本人にとっては「白くなれない肌より、やけば小麦色にもなれるきれいな白い肌がうらやましい」と、どちらかといえばコンプレックスの一つになっているようだった。



 そして、そんなかみつきかみつかれている若い男女二人組は、このネオ・ヴェネツィアのとある人物から不思議現象の相談を受け、今まさにその目的地に向かっている真っ最中なのである。


 ……この現状はどうあれ、だが。





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