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青い瞳のレクイエム#04.5『その 夜の不思議な出来事は…(2)』

ARIAの二次創作小説(続き物)です。
主人公はオリジナルキャラクターですので、その点をご留意くださいませ。

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「……で、アリシアさんだったかな、先輩に相談したんだよね」
 じっと水面を見やっていた穏は、波に揺れる灯里が目元をこすりながらもトレニアから離れたのを見ると、おもむろに話を続け始めた。
 灯里もだいぶ落ち着いたようだ。そして、泣き顔を見せたのが恥ずかしかったのだろう。涙をぬぐってくれるトレニアに「えへへ」とはにかんでいる。そして、穏に向き直りながら、膝のアリア社長をにこやかに抱え直した。
「はい。そしたら、アリシアさんが私の部屋に泊まってくれて。一緒にゴンドラの練習をする友達にも相談したので、その日はアリシアさんと友達二人の三人で私の部屋に泊まってくれたんです!」
「いい先輩と友達がいるんだ」
 嬉しそうに答える灯里に、トレニアが笑顔で相づちを入れれば、
「はひ!」
 灯里からはますます嬉しそうな声がもれてきて、穏もトレニアも、彼女が気分を持ち直したと少しほっとしたのだが……

「……みんなが一緒に泊まってくれたときは何もなくて、怖かったのを忘れちゃうくらい楽しいお泊まり会になりました」
 出会ったときの明るい表情に戻りつつあった顔を陰らせて、灯里が語るように言葉を続けたのだ。

「その夜がそんなだったから、友達は『あんたは不思議現象を呼び寄せやすい体質だけど、今回ばかりは気のせいだったんじゃない?』って。あっ、友達が言ってたことなんですけど、私って不思議現象を呼び寄せやすい体質なんだそうです。この前も私、お狐様の行列に遭遇したんですよ!」
「お狐様?」
 話の内容はともかく、喜に哀にコロコロと表情を変える灯里に、穏は困惑気味だ。
「お狐様って、あれじゃないですか? にわか雨の言い伝えの」
 と、トレニア。
「あぁ、にわか雨のときに狐面をした嫁入り行列に会うと神隠しに遭うってやつか」
「はひ! アリシアさんと一緒に出かけたときだったんですけど、私だけがその行列に会っちゃって……でも、買ってあったお稲荷さんをあげたら連れて行かれなくて済みましたっ」
 やれやれー、と、いっそこのままこの話を続けた方がいいような、すっかり本題を忘れた感じに表情の緩んだ灯里だったが……
「残念だけど、これ脱線してるのよね」
 なんとも、冷徹に話を線路に戻すトレニアだった。

「えっと……そう、みんなが『気のせいじゃない?』って言ってくれたから、私も気のせいだったんだと思ったんです。その次の夜もアリシアさんが泊まってくれて、そのときも本当に何もなかったから……」
「その言い方だと……」
 半ば察したような穏に、灯里は力なく首を縦に振る。どこかあきらめのような感じもあるのか、あるいは脱線した話に緊張が緩んだのか、今の彼女は先ほどと違って、怖がるというよりも、どこか困ったような笑みを浮かべていた。
「二晩も何もなかったから、私もほんとに気のせいだったんだと思って、アリシアさんには『もう大丈夫』と言って、またアリア社長と二人でいつものように寝ることにしました。でも……」
 水面に並んで映る三人の顔が、通り過ぎていったゴンドラの波で大きく崩れる。
「……でも、私一人になったらまた見ちゃったんですぅ!」
 笑みが浮かぼうとも、やはり怖いものは怖いようだ。灯里は、涙の浮かんだ目を指の背でこする。そんな彼女の肩にトレニアが再び腕をまわし、灯里も彼女の肩にもたれかかるようにして顔を預けるのだった。

 そんな灯里が、困惑したような笑みをおもむろに浮かべて、水面の穏に問いかける。
「……私、もう分からないです。そんな風に、また部屋で誰かに見られているような気配を感じるようになったと思ったら、今度は一人きりでもピタリとやんじゃって……」
「ピタリとやんだ?」
 灯里からの意外な言葉に、穏は問いかけるように彼女を見つめた。
「はぃ。また影を見るようになったから、またアリシアさんに相談したんです。そしたら、今度は警察の方を呼んでくださいました」
「うん、それで?」
「ARIAカンパニーにお巡りさんが来てくださって、私の話を聞いたり、会社の中や外を調べたりしてくださって、でも……」
 灯里が八の字眉で「ふふっ」と小さく笑う。
「『社屋には、誰かが無理に入ったような形跡がない、不振人物の目撃証言もない、灯里さんの気のせいでしょう』だって……それだけ言って帰っちゃった」
 うっすらと涙の浮かんだ目をこする灯里の肩を、トレニアがなだめるようにポンポンと叩く。
「『気のせいだ』なんてほんとぶっきらぼうよね。もう少し言い方があると思うな」
 そんな彼女に、灯里も「ほんと」と苦笑いするが、
「でも、そのあとからなんです」
 と、思い出したように言葉が続く。
「ピタリとやんだのが?」
 穏を見て、灯里も大きくうなづいた。
「私、お巡りさんまで呼んでもらったし、これ以上アリシアさんに迷惑をかけられないと思って、その日もアリシアさんが泊まると言ってくださったんですけど、大丈夫だからって、アリア社長と二人で過ごすことにしたんです。さすがに怖くてその夜は眠れなかったんですけど、でも、お巡りさんが『気のせい』って言ってくれたのが本当だったみたいに何も起きなくて……それが一昨日の夜かな」
「じゃあ、昨日の夜は?」
「昨日もです。もしかしたらと思ってあまり眠れなかったんですけど、何も起きずに朝になっちゃいました」
「そっか……」
 それを聞くと、穏は肘を膝に頬杖をついて、考え込むように水面を見つめこむのだった。





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