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青い瞳のレクイエム#07.4『ARIAカンパニーのだんらん(4)』

ARIAの二次創作小説(続き物)です。
主人公はオリジナルキャラクターですので、その点をご留意くださいませ。

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 そんな灯里とトレニアの笑い声が聞こえる天井を見上げ、アリシアが嬉しそうな笑みをこぼした。

 キッチンには、おなかが今にも叫び声を上げてしまいそうな、なんともかぐわしいあのシチューの香りがただよっている。どうやら、鍋にはアリシア特製ホワイトルゥが混ぜ合わされたようで、完成間近なシチューをお玉でかき混ぜる彼女の手も、とても軽やかだ。
 そんなアリシアの後ろでは、彼女のお願いを受けて、穏が鋭意テーブルメーキング中だ。ディナーマットを五人の座る所に並べ、そのマットにスプーンとフォークを置いていくだけのことなのだが、これが彼にとっては初めてのことらしい。椅子の前にマットを敷いては一歩下がって位置を確認し、その位置がどうも気に食わないといった面持ちでもう一度敷き直す姿は、まるで子供のような熱の入れ様だ。それを繰り返してやっと全員分敷き終わったかと思えば、隣のマットと位置を見比べて、ずれていればまた手直しを始めるものだから、
「あらあら、うふふ♪」
 上から響く談笑の声も手伝って、アリシアはもうずっと楽しそうな笑みをもらしっぱなしである。

「穏さん」
 そんな彼の肩を、キッチンからの呼び声が優しく叩いた。
「どうかされましたか? アリシアさん」
 ちょうど満足いくようにテーブルメークを完了できていたらしい。穏は得意げな顔で振り返ると、呼びかけたはいいが鍋を火にかけている手前その場から離れられないアリシアに、まるでお母さんに呼ばれた子供のように駆け寄って、彼女の楽しそうな笑いをさらに誘うのだった。

「本当に、今日は来ていただいてありがとうございました」
「いえいえ、ご相談いただいたんですから、お伺いするのは当然ですよ」
 定型な返事をにこやかに返した穏だが、内心はアリシアにお礼を言われて嬉しいやら照れるやら、である。
「実は、灯里ちゃんがエクソシストさんをあんまり怖がるものだから、お断りしようかとも思っていたんです」
「あぁ、確かに『すごく怖かった』みたいなこと、言ってましたね」
「やっぱりそうでしたか……でも」
 アリシアはちらりと天井を見やって、くすりと笑う。
「お断りしなくてよかったです。だって、灯里ちゃんがこんなに元気になってくれたんですもの」
 灯里とトレニアのいる三階からは、今も楽しそうな話し声がもれ聞こえていた。

「ねえ、穏さん」
「はい?」
「灯里ちゃんはもう大丈夫なのでしょうか……私は安心してしまってもいいのでしょうか……」
 そう尋ねたアリシアの表情は、先ほどとはうって変わって不安の色に染まっていた。
 しかし、それも仕方がない。
 そもそもの原因は、灯里の所に現れたという姿なき『影』なのである。そして、三階からは確かに楽しげな灯里の声が聞こえてきてはいるが、彼女の見たという影については、エクソシストである彼らが来た今もまだ、正体が何なのか、あるいは灯里の勘違いなのか、全くはっきりとされていないのだから。
 笑顔から表情を一変させたアリシアに、穏も思わず真顔になる。
「申し訳ないです。ご依頼を忘れていたわけではないのですが……」
「いえ、灯里ちゃんもあんなに楽しそうだし、思い出させないよう、あえて話題にされないのじゃないかと思っていました」
 にこりと微笑むアリシア。
 そんな優しい笑みを投げかけられた穏はといえば、「あはは」と苦笑いしつつ頬を掻くしかなかったのだが。


「ここに着く前に大方の話は灯里さんから聞きました。ここ一週間は大変だったみたいですね」
「ええ、私にはもうどうしてあげることもできなくて……」
 流し台の奥の窓には、肩を並べる二人の姿がくっきりと映っている。その神妙な面持ちもはっきりと見てとれた。
「正直、とても驚いたんです。あんなにおびえて夜も眠れないくらいだった灯里ちゃんが、穏さん達と帰ってきたときにはもうあんなに元気で……」
「灯里さんの様子、そんなにひどかったんですか?」
 アリシアは静かにうなづいた。
「ええ……灯里ちゃんから話を聞かれているのならご存じでしょうけど、私や灯里ちゃんの友達も心配してここに泊まっているんです。私は二晩泊まったのですが、その時は私達だけでなく灯里ちゃんすらどうともなかったみたいで、だいぶ安心したようだったんですけど……」
 窓のアリシアが悩めるようにまぶたを閉じる。
「安心して、それで一人になったらまた見たんですよね」
「はい。勘違いだったと半ば安心していただけに、二度目はそれはもう怖がって……」
「それはそうですよね。しかも、そんな風にしてもう一度見てしまうと、今度もまた見るんじゃないかって不安が止まらなくなりますし」
 アリシアがまぶたを上げ、窓に映る穏にこくりとうなずいた。
「そうなんです。だから私も警察の方に来てもらったりしたんですが……」
「『社屋には誰かが無理に入った形跡がない、不振人物の目撃証言もない、灯里さんの気のせいでしょう』と軽くあしらわれたそうで……」
 アリシアのため息が、シチューの蒸気にまぎれて換気扇に吸い込まれていった。

「警察の方に来てもらったあとは、灯里ちゃんも不思議な影を見ることはなくなったって言っていたのですが……」
 ため息まじりのアリシアを、穏がちらりと気にする。
「『二度あることは三度ある』の言葉どおりになるかもしれないから、なかなか落ち着いて眠れないんですよね?」
 アリシアも、窓の穏が自分に向いたのを見て、同じように顔を向けて一つうなづいた。
「ええ。だから、また私が泊まるって言ったのですが、灯里ちゃんはこれ以上迷惑をかけたくないからと言って……もちろん迷惑だなんてことはないのですが……。他に何かして上げられないかと悩んでいたら、相談していたお友達がちょうど穏さん達のことを教えてくれて、それでそちらに連絡をしてもらったんです」
「なるほどー」
 アリシアの話をそこまで聞いた穏は、何かを思い出すようにしておかしそうに笑い出した。そんな彼に首をかしげてきょとんとしているアリシアに、
「ひとつ、よろしいですか?」
 人指し指を立ててみせ、何やら興味深げに、穏はアリシアの青い瞳を覗き込むのだった。





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