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~La Princesse Rose Blanche~
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青い瞳のレクイエム#09.2『その 青が映すものは…(8)』

ARIAの二次創作小説(続き物)です。
主人公はオリジナルキャラクターですので、その点をご留意くださいませ。

――*――――*――――*――――*――――*――――*――――*――

「トレニアちゃん、起きていたの!?」
 驚いたアリシアが顔を上げれば、そこには、まぶたを少しだけ重たそうにしたトレニアが、少しだけ苦笑いを浮かべて立っていたのである。
 灯里とトレニアが上がってから、もう数十分は経つ。その数十分の間も、灯里の部屋からは、話し声どころか物音すらほとんど聞こえてこなかったものだから、てっきり二人は夢の中とばかり思っていたアリシアは、穏が外にいるこのいま、誰から声をかけられるなど思いもしない。だから、薄いピンク色のネグリジェに豊かな曲線をつくるそのふくらみの奥では、バクバクと脈打つ心臓が今にもはじけんばかりだ。
 あぁ、びっくりしたわ……。アリシアはそうつぶやいて、その高鳴りを静めるように、二つのふくらみの間に手をあてた。
 アリシアがそんな模様なのだ。トレニアの方も、アリシアを驚かせたことに気がつかないはずがない。「ごめんなさい」とまるで穏のように苦笑いの頬を掻きながら、階段の残りを下りて、「ふぅ…」と息を整えるアリシアに歩み寄ったのだった。

「眠れないの?」
 表情をいつもの微笑みに整えたアリシアは、胸の手をテーブルへと下ろして、少し心配そうな顔でトレニアを覗き込んだ。
 そんな彼女に、トレニアは、どこか困った様子で八の字に眉をよせ、首を小さく横に振る。
「いえ……。ちょっと気になっていたことがあって……」
「気になること……?」
 時刻はもう午前二時を回っている。普通なら寝ていて当然のこの時間に、寝ずにこうして話しかけてくるほど気になることって、いったいどんなことかしら……。ちらりと考えをめぐらせたが、アリシアにはまったく想像がつかないし、そんな心配をさせてしまうような心当たりもない。
 だから、どんな内容かとアリシアは首をかしげてみせるのだが、トレニアの方はといえば、左右に目を泳がせてどうにも話しづらそうである。
 そんなトレニアに、アリシアはにこりと微笑んでみせた。そして「座ってゆっくりするといいわ」と、先ほどまで彼女が座っていた椅子を引けば、トレニアも「すみません…」と会釈しながら、彼女が引いてくれた椅子におずおずと腰を落ち着けた。

「ちょっと待っていてね」
 アリシアは、トレニアにそう笑みを投げかけると、彼女と穏と、自分のティーカップを持ってキッチンへ。しばらくすると、
 コポコポ――
 と、聞くだけで唾液がにじみ出るお茶を想像させる音が聞こえてくる。そして、そんな音に間もなく、少し想像と違う甘い匂いをまとったアリシアがテーブルへと戻ってきて……。
「はい、召しあがれ!」
 カチャン――
 磁器特有の涼しい音とともにトレニアの前に戻されたティーカップでは、少し褐色に染まった乳白色の液体が静かに波立ち、立ち上る湯気がなんともかぐわしい。
「さっきはなにも入れないただの紅茶だったけれど、こんどはミルクを多めに入れてみたの」
 紅茶にはカフェインが入っているから、人によっては、就寝前には飲まないようにすることもある。けれども、アリシアにとっては、カフェインの効果よりも、紅茶の風味や香りで気分を落ち着けて眠りに入りやすくする方が重要なようだ。確かに、いま彼女が淹れたミルクティーの香りはとても甘くて優しく、冬場の毛布のようにやわらかく包み込んでくるから、就寝前に飲めば、それはすばらしい夢を見せてくれそうである。
 味はどうかしら……。そんな風にアリシアがトレニアを覗き込む。トレニアは、アリシアの施しに申し訳ないと思っているのか、あるいは、アリシアに見つめられて恥ずかしいのか、こもったような声で「どうも……」と頭を下げると、
 カチャリ――
 早速、手に取ったカップにふぅふぅと息を吹きかけ、茶みがかった乳白色の液体をコクリと舌の上へ流し込んだ。
「……おいしい!」
 そうつぶやいた彼女の声は、顔を見て確認するまでもないほど、もとの明るい彼女の声に戻っている。もちろん、彼女の目の前にいるアリシアには、目じりの下がったトレニアの表情がぱっと見てとれるから、なぜだかここしばらくの灯里と同じように表情を陰らせていたトレニアに少し心配していたアリシアにも、ホッとしたような笑みが自然とあふれてきて、
「うふふ♪ トレニアちゃんも、穏さんも、本当においしそうにしてくれるから、私、すごく嬉しいわ!」
 そうもらしたアリシアは、本当になにげないつもりだったのだが……。
「おいしそう、じゃなくて、本当においしいんです!」
 トレニアが、真顔でそう反論するものだから、少しだけ面食らったアリシアも、
「あらあら、うふふ♪ そんなに褒めてくれると、嬉しくって私、眠れなくなっちゃうわよ?」
 と、コロコロと笑い出して、トレニアの方も「あはは」とおかしそうに笑い出した。
 そしてすぐ、なにかに気がついたようにはっとなったアリシアが、横目で上を見上げながらピンと伸ばした人指し指を口にあてた。
「(あっ……)」
 トレニアも、アリシアの意図にすぐに気がついたようだ。
「(うふふ、これからしばらくは、二人で内緒話ね)」
 アリシアとトレニアは、まるで本当に内緒話でもするように顔を寄せ合い、握ったカップから立ち上る湯気を鼻腔に感じながら、にこりと笑みを交し合ったのだった。





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