青い瞳のレクイエム#10.1『丑三つの思い(1)』
ARIAの二次創作小説(続き物)です。
主人公はオリジナルキャラクターですので、その点をご留意くださいませ。
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きらめく星明かりが、まるい天窓から室内へと注ぎ込む。
そのきらめきは天窓を見上げるベッドを優しく照らし、まるで、一枚の毛布に身を寄せあって眠る二人、夢見る灯里とトレニアの舞台照明のようである。
そんな暗い部屋の中、二人と同じ星明かりの照明に、柔和な笑みをたたえたアリシアの姿も、淡く、照らし出されていた。
(相変わらず、ここから見る夜空はすごくきれいね……)
二人のベッドの端に腰かけ、斜め上の天窓を見上げる彼女の横顔は、さながら宗教画に出てくる天使のようである。編み込みを解かれた長い髪は、片方の肩から胸のふくらみを越えて流れ落ちていくのだが、さし込む星明かりにきらきら輝くその金の束は、彼女が見つめる先、天窓の向こう側でこうこうと流れる天の川にも負けないほどにまばゆくて、まるで、星々の流れが灯里の部屋へと導かれたような錯覚さえ覚えさせる、それは美しい光景だった。
いまの時間は、アリシアとトレニアが客間で語りあってから、そう経っていない。
語るべきことを語り終え、休むというトレニアをここまで送り、気持ちよさげに眠る灯里とアリア社長を起こさないよう、そっと、ベッドに滑り込んだ彼女におやすみのキスをしたのが、ほんのつい先ほどのこと。それからまだ三分も経っていないだろう。それくらいに、横になったトレニアが寝息をたて始めるのは早く、
「(だいぶ気を遣ってくれていたのね……)」
アリシアは、そうつぶやいて目を細めると、褐色の頬にかかった金の筋を、そっと、人指し指で払ってやったのだった。
それにしても、幸せそうな寝息をたてる灯里の寝顔を見れば見るほど、今日来てくれたエクソシスト様たちには、ひとことやふたことのお礼などでは気持ちのすべてを伝えられないほどに強い感謝の念を、アリシアは感じてやまなかった。昨日のいまごろは、灯里もまだ熟睡できる心持ちでもなかったようだし、今朝にしても、エクソシストと聞いた灯里のあまりのおびえように、来てくれと頼んでおきながら、エクソシスト様には断りの電話を入れようかと思っていたくらいだった。
……そんな風に今日のスタートは荒れていたというのに、その一日の終わりはといえば、こんなにも静かで穏やかなのである。
よく見れば、灯里の毛布に横向きに滑り込んだトレニアの頭は、いつの間にやら、向かいあうようにして寝ていた灯里にギュッと抱きしめられていて……。
「(あらあら、うふふ♪ 二人とも、同期入社の仲良し社員みたい!)」
そう――
二人の話からすると、エクソシストは穏であって、トレニアは彼のお手伝いでしかないらしい。けれども、その「お手伝い」は、いまではもう、灯里と同僚だといっても不思議でないほどに打ち解けあってくれているではないか! それはもう、エクソシスト本人である穏が褒めるのにもうなづけるくらいで、確かに穏も場を明るく盛り上げてくれてはいるが、彼自身も言うように、トレニアが「お手伝い」をしてくれていなかったら、いまほど幸せそうな灯里の寝顔は見られなかったかもしれない。それくらいに、お手伝い役の少女は、灯里と出会ったその日から、その持ち前の人なつこさを大いに発揮して、灯里の心にすっとしみ入り、そして、灯里の心から不安ごとを吹き飛ばすくらいに、彼女を明るく元気付けてくれたのである。
嬉しいときや楽しいときは一緒に笑い、つらいときや悲しいときは一緒に泣いて……。いまのこの二人の姿は、そんな風にしてお互いにお互いをフォローしあいながら絆を深める、まさに「同僚」のようで……。
ふっと、アリシアの表情が陰ったようにみえたのは、照らす星明かりの光り加減のせいだろうか。
スースーと寝息を奏であって、二人して同じ夢でも見ているに違いない。アリシアは、そんな少女たちの寝顔を交互に見やって「ふふっ」と微笑むと、ちらりとベッド脇の小物棚に目をやった。
(穏さん、遅いわね……)
灯里の部屋に来て、もう少しで十分が経とうとしているが、いまだ、下からは扉のあくような物音ひとつ聞こえてこない。アリシアが彼の背にお手製のストールをかけてから、もう三十分近く経つだろうか……。はっきりとした時間は分からないが、ARIAカンパニーの桟路を回るにしては、いささか長すぎる時間である。
(ちょっと見てこようかしら……)
そう思ったアリシアは、二人の毛布を首までかけ直してやると、ベッドを揺らさないようゆっくりと立ち上がった。そして、客間に下りるため、当然のように階段の方へと目をやれば、
(そういえば……)
その視線の先に映るのは、灯里が「影」を見たというその場所である。
「(穏さんには、見えるのよね……)」
もちろん、アリシアには、そこになにかの姿どころか影に見えそうなモヤのようなものもなにも見えない。
(……でも、私に見えないだけで、灯里ちゃんやアリア社長には見える「なにか」がいまもいるのかしら……)
そう考えてみたところで、幽霊などというものは、これまで生きてきて一度たりとも見えたためしがないし、不思議な体験話をよく聞かせてくれる灯里も、その灯里に小物棚の向こうの存在を指し示したというアリア社長も、いまは起きる気配はまったくない。それなら、いまはなにもいないかといえば、そもそも見えない彼女には確認のしようもないわけで……。
(うふふ……)
アリシアは、困ったような笑みを浮かべて、なにかがいるかもしれないその場所に、そっと、足を運んだ。……が、分かりきっていたことだが、なにかを感じるわけでもなく、いつもどおりの客間が階段の下に広がるだけであった。
そして、アリシアが残念そうにため息をつこうとしたその刹那――
きぃー……、パタン!
階下から扉のひらいてしまる音が響いてきて、アリシアは、星明かりに慣れた目にはまぶしく感じるほど白く明るい客間へと、静かに、しかし大急ぎで駆け下りていったのである。
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