青い瞳のレクイエム#11.2『二つの思い(2)』
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ARIAの二次創作小説(続き物)です。 主人公はオリジナルキャラクターですので、その点をご留意くださいませ。
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「(あ、アリシアさん……起きてたんですか……!?)」 驚きのあまり布団を蹴った穏が、目を白黒させながら声のした方へと身体(からだ)をねじる。 部屋が暗いのは相変わらずなのだが、しかしそれでも、眠っていると思っていたアリシアの顔がこちらに向いているのは、すぐに判った。 「(あっ……! もしかして、俺……起こしちゃいました……?)」 「ううん、ずっと起きていたわ」 オレンジ色の薄明かりの中、アリシアの唇がかすかに動いてそう囁き返した。 「じゃあ……すみません。やっぱり俺、寝るのを邪魔してたみたいですね……」 思い当たるところがあったのだろう。穏はすぐさま頭を下げたのだが、 「そうじゃないの」 そんな彼の謝罪も、いつもと変わらないやんわりとした笑い声に否定された。 しかし……。 「……穏さんと……一緒かも」 笑ったはずの彼女は、その明るい返事のすぐあとに、なんとも重い雰囲気をまとった一言を続けたのである……。 穏の目はまるくなっていた。そして、ゆっくりと体を起こしきると、足をあぐらにして、いまだ起きていたウンディーネへと静かに向き合ったのだった。
「ちょっとだけ……話してもいい?」 「……ええ、もちろん」 時計の音が、間を計るように流れては消えてゆく。 意識すれば意識するほど大きく聞こえてしまう絶え間なく続くその流れに、アリシアの空気を吸い込む音が「スゥ……」と割って入った。 「私にも、灯里ちゃんの見たもの、見ることができるかしら……」 「……えっ?」 予想もしていなかった質問だったのだろう。穏の眉がクイと上がった。 「穏さんのように、灯里ちゃんと同じ世界を共有できるようになって、私も……灯里ちゃんの力になってあげられるようになれるかしら……」 「アリシアさん……」 ゆっくりと、アリシアはかみ締めるように問いかけた。 それを、穏は静かに聴いていた。その彼には、言葉は自分へと投げかけられていても、投げかける彼女の瞳は自分ではなく、オレンジに染まる天井に隔てられた三階を見つめているように感じられてならなかったのであるが。
「……私ね、穏さんと灯里ちゃんが『普通は見えないもの』が見えるのって、なんだか分かる気がするの。だって、二人ともすごく純粋で、それに心がとても優しいわ。そんな二人なら、私には見えないものが見えたとしても不思議じゃない……。むしろ、見えない誰かさん達の方から『見てほしい』って姿を見せてくれそうよ」 そう言って、アリシアから「ふふっ」と笑みがもれる。 「夕飯の準備をしてた時にね、穏さんが『お狐さま』のことで私が変な顔をしたって言ってたじゃない?」 「……ええ」 「あれ、あの時はごまかしちゃったけど、アタリ。顔に出したつもりはなかったんだけど……穏さんにはすっかり見透かされちゃったみたいね」 アリシアの顔がまた少しだけ穏に傾いて、小さくだがペロリと舌を出したようだった。 「今なら……聞かせてもらえますか?」 ……再び、アリシアは天井に顔を向かい合わせた。
ゴソリ――
彼女の布団から、小さく身をよじる衣擦れの音が聞こえてくる。 「……ちょっと前に、灯里ちゃんと一緒に日本村へ遊びに出かけたの。その時にね、灯里ちゃんと少しの間はぐれちゃったんだけど、はぐれたそのほんの少しの間に、灯里ちゃんったら……お狐さまの嫁入り行列に遭遇したんだって」 「ええ、俺にもそんな話を聞かせてくれましたね」 穏は、小さく相づちを打った。 「灯里ちゃんはよく不思議な体験話を聞かせてくれるんだけど……。私ね、そういう話を聞くたびに、一緒に体験できたらなー、今度は二人で不思議な体験をして、お茶を飲みながら同じ話で盛り上がれるかな! ……って、そんな風に思っていたの」 穏の前髪が前後に振れた。 「でも……やっぱり私じゃダメみたいね」 うふふっ……。 乾いた笑い声。 「あの時こそ、はぐれたのは偶然だと思っていたけれど……いま思えば、まるで私は仲間はずれみたいに蚊帳の外……。そして、仲間はずれだとかこんな風に考えちゃう人間だから……きっと、お狐さまに避けられちゃったのね」 その彼女の言葉を聞いた時、穏の脳裏に、アリシアがときおり覗かせていた、どこか陰の感じられる表情が、ふっと、よぎった。 (ああ……なるほど……) 穏の人差し指が、頬へと伸びる。 そして、アリシアの視線を追って見つめる先を同じくしながら、神妙な面持ちの彼は、再び、ゆっくりと布団に体を伸ばしたのだった。 |
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