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青い瞳のレクイエム#11.3『二つの思い(3)』

ARIAの二次創作小説(続き物)です。
主人公はオリジナルキャラクターですので、その点をご留意くださいませ。

―*――――*――――*――――*――――*―

 ふた呼吸ほどの間をおいて、どこかおかしさを含ませたような穏のため息が、オレンジ色の天井へと吸い込まれていった。
「……実は俺も、今の今まで、似たようなことを悶々としてたんです」
「似たようなこと?」
 アリシアは、首をかしげるようにして穏に顔を向け、そう問いかけた。
「ええ。……今のアリシアさんの話になぞらえれば、『お狐さまに出会った体験話をしたら、話をした人たちに避けられるようになった』って感じかな」
 そう答えて、穏は「ふふ」と鼻で笑った。
「やっぱり……そういうことがあったのね」
「まぁ……俺の場合は『お狐さま』じゃなかったですけどね」
 今度は、声を出して苦笑い――
 その笑いは、穏にとっては特別な意味などなく、無意識にもれ出たただの笑いだった。けれども、それを聞いていたアリシアには、何か特別なものが感じられたらしい。彼女は、いつの間にか吸い込んだままで止めていた息を天井に向けて押し出すと、静かに、彼の方へと寝返りをうったのだった。

「……今まで見えなかったものが見えるようになった時は、俺は自分の見たものをみんなに解らせようって、今じゃもう考えられないくらいに躍起になったものです。でも、話せば話すほど、がむしゃらになればがむしゃらになるほど、俺に近寄る人はどんどん減っていきました」
「……そう……」
「いかんせん、解ってもらえるはずがないんですよ。……だって、解らせようとしてる俺自身だって、見ることができるのは、どういう訳か、青くなったこの左目だけっていう状態なんですから」
 穏の左手が、その左目のある顔にゆっくりと伸びた。
「そう……黒いままの右目では見えないけれど、青くなった左目でなら見える……。……見える? 『見える』って、物が反射した光を網膜がとらえてるってことなんだよな。じゃあ、みんなには見えない誰かが、その見えない身体で光を反射して、その光を俺の左目がとらえてるのか? じゃあじゃあ、光を反射してるんなら、どうして普通に見えてる俺の右目には見えない……? どうして周りのみんなのその目には見えないんだ!?」

 パタリ……。

 青い左目を覆っていた穏の左手が、力なく布団に落ちた。
「……なぜ、俺の左目には人と違う『何か』が見えるのか……。それは、俺自身でさえ納得のいく説明も、証明もできない謎な事なんです。見えるからといって、自分では他の人に見せてやることもできないですし。それに、そもそも、見える俺のこの左目は正しいのか……。そもそも、見える俺の方が間違っているんじゃないのか……。俺は、そんな根本的なところからはっきりとしないモヤの中に入り込んでしまったんですね」
「穏さん……」
 アリシアは、語る穏を神妙な面持ちでじっと見つめていた。
「……そんな、今でさえ答えの出ない自問自答を繰り返すうちに、幼かった俺は、いつの間にか、自分の見る『景色』について誰にも話さなくなっていました。アリシアさんにだって、いつかエクソシストの仕事のことやこの目のことについて訊かれるのは覚悟……というか、それで来てるんだから訊かれて当然のことですし、最初は当たり障りのない言葉を選んで説明するつもりだったんです」
 等間隔に響く音が、間を静やかに刻んでいく――
「……誰にも信じてもらえない。信じさせようにも、その方法すら思いつかない……。そんな袋小路のような閉塞感の中で、俺は知らず知らずのうちに、自分の殻に閉じこもっていたのかもしれませんね」

 でも……!

 まぶたを閉じた穏の顔が、左右に小さく揺れた。
「そんな風に、あまり自分のことを話したくなかった俺でも、アリシアさんには本当のことを話したくなった……。結局、そのことはトレニアに尻拭いさせてしまったけど……それでも! 俺は、アリシアさんには話そうと思った……。いや、話したかったんですよ……!」
 穏は目を開け、「ふふっ」と笑みをこぼした。そして、虹彩異色の瞳が並んだその顔を、自分を見つめ続けているウンディーネの方へと傾けたのである。
 アリシアの瞳を見、二度、瞬きをする。
 そうして、彼は、ゆっくりだが確かな口調で、こう投げかけた。
「……それがつまり、どういうことを意味しているか……分かりますか? アリシアさん」
「えっ??」
 思わず裏返るアリシアの声。唐突な質問にその意図すら分からない様子で、声色からも、明らかにキョトンとしているのが見てとれる。
 そんなどぎまぎする彼女に、穏は「あはは」とおかしそうに笑い、しかしすぐに、引き締めた声で新たな言葉を続けた。

「それじゃあ、最初の質問の答えからお返事しますね」

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